不器用な殉愛
「な、なによっ——! とおっ!」
今度は、ジゼルは上から切り下ろした。剣の打ち合わされる鋭い音と共に、二人の刃がぶつかり合う。
ディアヌはその光景を口を開いてみていた。自分にはとうてい理解できない、そんな雰囲気だ。
「——そら、右ががら空きだ」
「ふざけないでよっ!」
「ふざけてない。足元がお留守」
「んもうっ!」
ジゼルをこんなにやすやすとかわすなんて、ルディガーはすごい。目を丸くし、口を開いているディアヌの姿は、きっとはたから見ていたら間が抜けていただろう。
「——これで、終わり!」
「痛いっ——もう、信じられないっ!」
剣を持った手をしたたかに打ちのめされて、ジゼルは足を踏み鳴らした。ジゼルがこんな風になるところを見たことがなかったから、また驚かされる。
「ルディガー! すごいっ! ジゼルより強いのね!」
ディアヌは、ルディガーに飛びついた。
「姫様! そんな男に飛びついてはいけません!」
また、ジゼルがきぃっとなる。ルディガーがディアヌを引きはがして、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「——剣が使えるにこしたことはない。ほら、俺が稽古をつけてやろう」
「私の剣は貸しませんからねっ」
ジゼルがぷいっと顔を背け、ディアヌは笑い声をあげた。ジゼルがそういう顔をして見せたのは初めてだったのだ。
「——俺は、これでいい」
ルディガーは、地面に落ちていた棒を取り上げる。
「ルディガー、いい?」
「かかってこい!」
剣の稽古もルディガーと一緒なら楽しい。
いつまでも、こんな日が続くような気がしていた。