不器用な殉愛

「……そんなの、知らない。だって、お父様もお母様も私のことなんか気にしてないもの」

 本当は、誰にも素性を言ってはいけないはずだった。修道院で貴族の娘が暮らすというのは珍しくもないが、ディアヌの素性については秘めておいた方がいいというのがクラーラ院長の意見だった。

 だが、ルディガーには、本当のことを知っておいてほしいと思わずにはいられなかった。

「私のお父様は、シュールリトン王国の王様よ。お母様は——トレドリオ王国の王妃様だったんですって」

 それが何を指しているのか、本当のところは、ディアヌは知らなかった。

 父は、トレドリオ王国の貴族だったが、ディアヌの母親に横恋慕し、主を討ち果たした。ディアヌの母、ブランシュは、自分の夫を殺した男に身を任せたことになる。

 トレドリオ王との間に、サビーナというディアヌの一歳上になる姉がいた。だが、ディアヌとサビーナは同時期に熱病にかかり、サビーナだけが死んだと聞かされている。

「病気がよくなったら、お城に帰ってもいいって言ってたのに……一度も帰ったことはないの」

 もっと小さい頃は、しばしば熱を出して倒れていたような記憶もあるが、ここ一年は風邪もひいていない。それなのに、まだ城に戻ってはいけないというのだ。

「きっと、私が邪魔なのよ。だって——」

 この修道院に宿泊する旅人達の口さがない噂。ブランシュ王妃は、マクシムに媚を売り、城内は彼女の意のままになされている——という。
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