不器用な殉愛
王妃は、妾の立場であるブランシュが権力を持つことにいい顔をしていないらしいし、二人いる異母兄達も母とは敵対しているそうだ。
「……私がいない方が、贅沢できるからだって、この間泊まった人が言ってた」
「そんなはず、ないだろ」
不器用に、でも優しくルディガーの手が、ディアヌの髪を撫でてくれる。こんな風に髪を撫でられるのは初めての経験だった。
修道院に来て以来、両親とは顔を合わせていない。母の顔でさえも、もう忘却の彼方だった。
「——約束する。俺が、いつかここから連れ出して、ディアヌが本当にいるべき場所に連れて行ってやるから」
「……ホント?」
「約束する」
小指を絡める約束の仕草。本当にルディガーがここからディアヌを連れ出してくれるとは思わない。だって、彼にはそんな力はないのだから。
それでも——そう言ってもらえることにちょっとだけ安堵してしまった。
「——ちょっとルディガー! あんた姫様相手に何してるのよっ!」
練習用の剣を持ったジゼルが、ルディガーに向かってまなじりを吊り上げる。慌てて絡めた指を解いたけれど、ジゼルのむっとした表情は変わらなかった。
「姫様も——ルディガーに気を許すのはほどほどにしておかないと」
「……だって」
ジゼルにはわからない。ルディガーの存在に、ディアヌがどれだけ慰められてきたか。
それは、たぶん——ディアヌ自身にも意識はしていない。初恋になる前のごく淡い感情だったのかもしれなかった。