不器用な殉愛
「そう怒るなって。うんと剣の練習を頑張るって約束してたところなんだから——な、そうだろ?」
ルディガーがぱちりと片目を閉じて合図するから、ディアヌも慌てて首を縦に振った。
ルディガーがここにいてくれるのなら、もう少しだけ頑張れる。
「……それなら、いいけど。姫様は、剣はあまり得意ではありませんからね」
ジゼルが、ディアヌに練習用の剣を手渡した時だった。
と、その時——カンカンカンッ! と激しく鐘の打ち鳴らされる音が響いてきた。ディアヌとジゼルは顔を見合わせる。
「——ルディガー、一緒に来て!」
ディアヌの手を引き、剣を手にしたジゼルは走り始める。ルディガーが遅れずについてくるのが視界の隅に映った。
「何があった!」
二人の速度に合わせて走りながらルディガーが問う。息切れ一つせず、ジゼルは返した。
「今の鐘の音は、ここに向かって敵が来てるっていう合図。この地域は貧しいから——時々盗賊団が出没するの。たぶん、そいつらじゃないかしら。修道院を襲うなんて世も末だけど、ここは国境で治安があまりよくないから」
三人が食堂に飛び込んだ時には、そこには修道女達が全員集合していた。だが、皆の様子がいつもとは違う。
日頃彼女達が身を包んでいる修道女としての服装は、今はテーブルの上に投げ出されていた。彼女達が身に着けているのは、動きやすそうなシャツとズボン。何人かは軽い革の鎧も身に着けている。
そして、彼女達の手には、弓矢や剣、それに聖職者の武器であるメイスなどがあった。中には巨大な戦斧を持っている修道女もいる。
クラーラ院長も、いつもとはまるで違っていた。腰に立派な剣を吊った彼女は、半分白くなった赤髪をきっちりと首の後ろでまとめている。
「ジゼル! 姫様を頼む——納屋に隠れてな! ルディガー、あんたもだよ!」
「なっ、なんだよ——」