不器用な殉愛

 いつもとは違う院長の口調に、ルディガーは驚いたようだった。そんな彼に向かい、院長は立派な剣を放り投げる。

「亭主が使っていたものだ。それをやる——姫様と孫を頼むよ」

「おばあ様!」

「ジゼル、あんたも納屋だ。姫様を頼む」

 投げられた剣を受け止めたルディガーは呆然としているみたいだった。ジゼルには他の修道女が稽古用ではない、本物の剣を渡している。

 ディアヌに渡されたのも、小ぶりとはいえ刃のついた本物の剣だった。ずしりとしたその重みに、背中を冷たいものが流れ落ちるのを自覚する。

「いいかいジゼル。姫様にこの剣を抜かせるんじゃないよ。姫様にこれを抜かせるようじゃ終わりだ」

「——はい。おばあ様」

 ジゼルの顔も緊張にこわばっているみたいだった。

「ルディガー、大丈夫だね?」

「——ああ、まかせろ」

 この状況でも、ルディガーはあまり緊張していないようにディアヌの目には見えていた。どうして、彼はこんなに落ち着いていられるんだろう。

 納屋の奥の方に三人は身をひそめる。

「ここの修道院は、いったいどうなってるんだよ」

 ひそひそとルディガーが問う。不安になって、ディアヌはぎゅっとジゼルの袖をつかんだ。

「——昔、女ばかりの傭兵団がいたんですって。おばあ様は、その団長だった」

「……嘘だろ」

「嘘をついてどうなるのよ。ここにいる修道女の大半は、元女傭兵。最初から信仰の道を志して入ってきた人もいるらしいけど——自分の身を守れない者は、ここには必要ないの」

 傭兵団と聞かされてもディアヌにはぴんとこない。それは、ルディガーも同じみたいだった。
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