不器用な殉愛
「全員、油断するんじゃない——弓、用意!」

 いつもの口調をがらりと脱ぎ捨てたクラーラ院長が、素早く指示を出している声が納屋の中まで聞こえてくる。

 ディアヌは身体を丸めるようにした。右側にジゼル、左側にルディガーがいて、二人ともぴったりと身体をくっつけている。

 二人の体温に少しだけ安堵したけれど、ジゼルの手がかたかたと震えているのがわかる。

「どうした? 怖いのか」

「あ、当たり前よ……おばあ様は落ち着いているけど、私は戦場になんか出たことがないんだから」

「お前みたいな子供が戦場には出ないだろ」

「あんただって子供じゃないの」

「俺は、もう十六だ」

 一人じゃない——一人じゃないというだけで、こんなにも心が強くなる。

「ここにいるのは、尼さんばかりだ。いいな、根こそぎ奪え!」

 物騒な言葉が聞こえて、ディアヌはそっとルディガーの顔を見上げる。彼がきゅっと手を握りしめるのがわかった。

 ディアヌには何もできないから、せめて、彼の手に自分の手を重ねる。

「……姫様」

 反対側の手を、ジゼルが握ってくれた。聞こえてくるのは男女の怒声、悲鳴、そして、ものが破壊される音。

「——俺のせいだ」

 ルディガーが唇を噛み締めた。

「俺のせいで、こんな迷惑を——」

「ルディガーのせいじゃない」

 あまりルディガーのことをよく思っていないように見えたジゼルが、ゆっくりと口を開いた。
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