不器用な殉愛
「このあたりは貧しいから。時々、ラマティーヌ修道院の修道女達が『出稼ぎ』に行く先は戦場——そうじゃないと、近隣の村に手を差し伸べることはできないから。たぶん、この修道院には、財宝があるって知って奪いにきたんだと思う」
「——財宝?」
「うん。いざって時、近隣の村の人達を助けるため、ここで暮らす修道女達の生活を守るため。傭兵として稼いだお金は、この修道院にためてあるの」
「——まったく。ここの修道女達と来たら。『訳アリ』なんだろうとは思ってたが、とんでもない人間の集まりだな!」
小さく笑ったルディガーは、ディアヌの手から自分の手を引き抜いた。それから、ぽんとディアヌの頭に手を置く。彼の手はすごく大きくて、なんだか胸がどきどきとした。
怖いとか、そんな感情なんかじゃない——ただ、鼓動が速くなって、息が苦しくなって。
その時、物置小屋の扉がばんと開かれた。
ディアヌはひっと息をつめた。自分の心臓の音が耳の奥でやかましく鳴り響き、その音が世界中に響いているのではないかと不安をあおる。
「——ここは物置か。さすがに、ここには誰もいないみたいだな」
ルディガーの手に力が入るのがわかった。その時、ジゼルがげほっと咳をした。
「誰かいるぞ——!」
声と共に、男にこちらに走ってくる。
「——王が王であるためには、民の幸せのために身を削るべき……そう、教わってきたんだけどな」
情けなさそうにルディガーは言うなり立ち上がった。
「でも、俺にできるのはせいぜいここを守るくらいだ。ジゼル、ディアヌ、動くな!」
叫んだ次の瞬間には、剣が閃いた。