不器用な殉愛
頬に熱いものが跳ね散る。それが、ルディガーに切り伏せられた男の首からあふれた血だということに、その時は気づかなかった。
ただ、ディアヌの目に映ったのは、軽やかに激しく残酷に剣を使うルディガーの姿。薄暗い小屋の中でも、彼の姿はよく見えた。
「え——えええいっ!」
一人、ルディガーの取り残した男がこちらへ向かってくる。震える声と共にジゼルが剣を突き出した。
その動きをなんなく交わした男が、ジゼルに切りかかろうとする。
「……やああっ!」
へたりこんでいたディアヌは、男の足を振り払った——ずっと抱え込んでいた剣で。足をすくわれた男がひっくり返り、すかさずジゼルが剣を突き立てる。
「姫様、姫様——無事ですか!」
「う、うん……」
剣を男の足にたたきつけた時、嫌な感触がした。人の命を奪うというのは、それだけ大変なことなのだと思い知らされたみたいだった。
「ジゼル、ジゼル……ごめんね」
あたりには血の臭いが立ち込めていて、ディアヌの顔は返り血でかぴかぴになっている。ジゼルもぺたりと座り込んで肩で息をしていた。
その間も、納屋の外では激しい戦いが繰り広げられているみたいだった。
クラーラ院長達が駆けつけてきた時には、戦闘はすっかり終わりになっていた。
「ジゼル、……よくやった。ルディガーも」
納屋には死体が四体転がっていた。一体は、ディアヌとジゼルの二人がかりで倒した男。あとの三体はルディガーが倒したものだった。