不器用な殉愛
売国の王女は征服王の前に立つ
 ルディガーがラマティーヌ修道院去ってから十年が過ぎた。そして、ディアヌもまた二年前、十四歳になった年に修道院を出た。

 修道院を出て、王女として城に戻るよう要請されたのだ。城に戻ってからも、ディアヌには居場所などないも同然だった。

 父であるマクシムには、王妃の産んだ二人の息子がいる。王妃はすでに亡くなっていて、城で生活しているのは、父と、王太子であるジュールと第二王子ヴァレリアン。

 誰もディアヌにとって親しめる相手ではなかった。

 ディアヌに与えられたのは、城内で母が生活していた場所だった。その区画にある部屋は、いずれも外から鍵がかけられるように作られている。

 父にも兄達にも顔を合わせたくなかったから、ディアヌは与えられた部屋にこもっていることが多かった。

「——姫様。よろしいですか?」

「ええ。何かあった?」

「祖母から手紙が届きました。セヴラン軍は、順調に勝ち進んでいるとのこと」

「……そう」

 あの日、修道院を去ったルディガーが、その後どのような生き方をしてきたのか、ディアヌにはわからない。

 ただ、ディアヌが城に戻った二年前頃から、各地でルディガーの名を聞くことが増えた。セヴラン王の遺児、ルディガー。簒奪者に滅ぼされ立自分の王国を取り戻すために立ち上がった、彼に協力しようと思う者は多い。

「ルディガー王は、順調に勝ち進んでいるようですね」

「修道院の皆は元気かしら」

「ええ。『出稼ぎ』に行っているのも、相変わらずみたいです」

 元傭兵が院長を務め、配下の修道女達も元傭兵が多いのがラマティーヌ修道院の特徴だ。
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