不器用な殉愛

 この城は、どうかしている。この城に戻ってきた時から、常にそう思っていた。

 父に怯え、兄に怯え——彼らの目に留まらぬよう、ひっそりと息をひそめて働いている。彼らの機嫌を損ねれば、どんな目にあわされるかわからないから。

「いえ……私は、こんなことくらいしかできないから。さあ、もうお行きなさい。ここにいてもいいことはないわ」

 ディアヌの言葉に、侍女はうなずくと慌てた様子で立ち去った。

 その後ろ姿を見送りながら、ジゼルがため息をつく。

「——本当に、いつまでこんな日が続くのでしょうね」

「……長いこと続かないと思いたいわ……いえ、断ち切らなくては」

 実のところ、父や兄達を止めるには、ディアヌ自身の手を下さなければならないのではないかと思ったこともあった。

 だが、乱れた生活を送っている割に三人とも隙がない。誰か一人を殺せば、即座に犯人に手が伸びるであろう。

 それを考えればうかつに手を出すこともできず、じりじりしているしかなかった。ルディガーの侵攻は、一つの契機であったのだ。

「——今日は、南の防壁の方へ行ってみましょう」

 部屋の外では、誰が聞いているかわからない。外での会話は、ひそひそとするのがいつものことだった。

 防壁のあたりには、何人かの兵士がいるが、二人の方にはちらりと目を向けただけだった。

「……ここは、特に守りが厳しいようですね」

「ええ……ここから攻めるのは難しそう。あなたならどうする?」

「そうですね……あ、お待ちください」

 ジゼルが不意に声音を変えた。
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