不器用な殉愛
「姫様、そろそろ中に戻りませんと——だいぶ、冷えてまいりました」
「そんなことないでしょう」
まだ、春先だが寒いというほどのことではない。けれど、すぐにジゼルがそう口にした理由を悟ることになった。
「お前達、こんなところで何をしている?」
城壁に上ってきたのは、王太子のジュールだった。彼は、ディアヌに上から下まで視線を走らせる。その彼の視線に不気味なものを感じ、ディアヌは一歩後退した。
「こんなところに来ても、何も面白いものはないだろう」
「……街が、見たかったので」
街の様子を確認できるのは、南の城壁からだけだ。正面から異母兄の目を見ることができなくて、もごもごと口にした。
「……そんなところを見ても面白くないだろうに」
「姫様は、出かけられないからです。せめて、外の空気を感じたい、と」
「侍女がよけいなことを口にするな——街に出たいなら、俺が連れて行ってやろうか」
「いえ、お異母兄様のお手をわずらわせるわけにはいきませんから。失礼します」
父とよく似た濃茶の髪に、茶の瞳。堂々たる体躯ではあるが——彼の笑みには得体のしれないものを感じてしまう。
「ディアヌ、あまりうろちょろするなよ——お前にいい印象を持たない者も多い」
彼の言葉は聞こえなかったふりをして、足早にその場を去る。の追及をうまくかわすことができたのかどうか、自信は持てなかった。