不器用な殉愛
テーブルの上にそれを広げれば、白い布に黒いインクで、細かな絵図が描かれている。
「我が国の兵士の配置、そして——砦の守りがどうなっているのか。ジゼルの手を借りて調べました。これは役に立ちませんか」
どこにどのくらい兵士がいるのか、攻めやすいのはどこか、守りが厚いのはどこか。
武器庫に食糧庫——そして、王族が身を潜めている場所まで。これだけの情報があれば、この膠着状態を打ち破ることができるはずだ。
ルディガーが、落ち着いたまなざしをこちらに向ける。
「先ほど、自分の親兄弟を殺す様にと俺に言ったが、これだけの情報を持ってきてくれたのならばそれも可能だな」
まだ、まだもう一つ願いがある。
それを口にするのにもまたためらったけれど、ここで憶するわけにはいかなかった。
「——お願いは、それだけではありません。私と結婚してください」
「王家を売って自分一人生き残るつもりか!」
ノエルが憤怒の声を上げる。男達は口々にディアヌに向かって呪詛の言葉を吐き出した。
一族を売り、自分一人生き残りを図る。しかも一族の者を売って——などというのは、彼らからすれば信じられない行為だろう。
「ノエルと言いましたか。ルディガー陛下が国を平定するのにどのくらいかかると思います?」
だが、ここでひるむわけにはいかないのだ。父や異母兄達を止める手段は、他にないのだから。