不器用な殉愛
 ルディガーは、険しい表情で周囲を見回していた。

 ディアヌは自分を恥じた。肝心のことが頭から抜け落ちている。

「しばらくの間、ジゼルを、自由に行動させてもかまいませんか?」

「姫様!」

「これだけの怪我人がいるのよ。薬も——包帯も足りていない。隠した部屋から持って行って、手当の手伝いを——いえ、陛下の許可をいただけたなら、ですけれど」

 ここは、ディアヌの暮らしていた城ではあるが、ディアヌの城ではない。今の、この城の主はルディガーだ。ジゼルを勝手に動き回らせるわけにもいかなかった。

 ルディガーは、あの頃と少しも変わっていない。ディアヌの申し入れを何事もないみたいに受け入れてくれた。

「かまわん。行ってこい。だが、薬と包帯とは?」

「薬は、私とジゼルが調合したものです。包帯は、清潔なシーツを——山ほど隠しました。切れば包帯として使えますから」

 王族の身を優しく包んでいたシーツではあるが、怪我の手当てに使った方がよほど役に立つはずだ。

「……そうか」

 こちらを見るルディガーの目が、いくぶん柔らかくなったようだった。いたたまれなくなって、視線をそらし、ジゼルを手で促す。

「お願いだから、行って。私では——役に立たないから」

 この城で、自分がどんな目で見られていたのか知っている。マクシムの娘——それだけで、この城で暮らしていた者達にとっては、憎悪の対象だろう。

「かしこまりました。では、そのようにいたします」

 ジゼルが一礼し、急ぎ足にその場を去る。ジゼルのことも用心しているのか、一人、あとを追うようにとノエルが命じているのが聞こえた。
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