不器用な殉愛
王の私室、王子達の私室と案内していく間も、ディアヌはあちこちから突き刺さる視線を感じていた。それは、好意的なものではなく——おそらく、呪詛を込めたものだったのだろう。
「ばかばかしいくらいに仰々しい部屋だな。趣味が悪い」
父が使っていた部屋に入ったルディガーは、吐き捨てるようにそう口にした。城内のどの場所よりも、この場所は豪奢にしつらえられていた。
だが、高価なことばかりが目立つ家具は、ルディガーの目には趣味が悪いと映ったらしい。
「……陛下が、お好きなように模様替えなさればいいのです」
側に立っているのは、ラマティーヌ修道院で共に暮らした少年ではない。この国を征服しに来た——王、だ。
そして、ディアヌは自分の国を裏切り、彼に売り渡した王女としてここにいる。今までのように人の目のあるところでは、「ルディガー」などと呼ぶことはできなかった。
自分で選んだ道なのに——胸が痛い。その痛みを抑えつけるように、胸に手をあてる。
「次が広間——か。そこでマクシムとヴァレリアンが待っている」
自分のしでかしたことに後悔はしていないつもりだが——父も兄も納得はしていないだろう。
長い廊下を足早に進む。ここも戦いの場になったようで、そこかしこに血のとんだ跡が残っていた。
その血の跡をなるべく目に入れないようにしながら、この城で一番大きな広間へとルディガーを案内する。
何度も目にした広間の扉の前では、二人の兵士が待っていた。どうやら、彼らはここを警護する役を負っているらしい。