不器用な殉愛
「私が男なら——いいえ、せめてジゼルと同じくらいの剣の腕を持っていれば! あなたに毒を盛る機会を得られたなら——私は自分の手でであなたを殺した! お母様も、きっとそれを望んだはずです」
母は、父を愛したことなど一度もない。彼女の心は、いつだって、死んだ前夫に向けられていた。前夫との間に生まれた娘が死んだあと、ディアヌを修道院に追いやったのは——ディアヌを見ていたくなかったから。
「王が王であるためには、民の幸せのために身を削るべきだと、そう教えてくれた人がいました。私も、そうありたいと思います」
かつて、そう教えてくれた人がいた。
ディアヌの生き方をそれまでとはまるで違うものに変えた人。
「敗れた王家の娘として、果たすべき責任はきちんと果たします」
「何が王家の娘だ。城で暮らしたこともないくせに」
異母兄のヴァレリアンが歯をむき出しにしてあざ笑う。そう言えば、彼とはろくに口をきいたこともなかった。ヴァレリアンは、父によく似ている。彼に対して親しみを持ったことはなかった。
「そうですね、でも、私が最後の生き残りとなれば私が責任をとるしかないでしょう」
「まだ王太子が残っている! それに、お前が生き残ることができるかどうかはまた別の話だろう?」
この人達とは、何を話しても無駄だ。自分達の悪事について、何も感じていないんだろう。
「——私は、ここに立ち、あなた達は囚われている。それが全てですよね。それに、王太子は、この城を去りました。民を捨て、自分だけ逃げた時点で、彼に王たる資格はありません」
一息にそれだけを言うと、ディアヌは踵を返した。これ以上、この広間の空気を吸いたくない。
「申し訳ないのですが、疲れました。私は、部屋に戻ります」
部屋を去るディアヌを引き留めようとする者はいなかった。