不器用な殉愛
亡国の王子と捨てられた王女の出会い
 ディアヌがラマティーヌ修道院で暮らすようになったのは、三歳を過ぎた頃だった。

 父のマクシムは、シュールリトン王国の国王だ。トレドリオ王国という国を滅ぼして、王になったらしい。

 らしいと聞いてはいるが、六歳の誕生日を迎えたばかりのディアヌにはすべてを理解するのは難しかった。

 修道院では総勢五十名ほどの修道女が一緒に暮らしていて、クラーラ院長が全ての修道女を束ねている。

 子供は六歳のディアヌと、院長の孫娘であるジゼルの二人だけ。

「——つまんないな」

 修道院で暮らしている修道女達は、毎日忙しくしている。薬草園で薬草を育て、牛や鶏の世話をし、それから旅人達を宿泊させて、時折いくばくかの寄付金を得ている。

 そうやって、この修道院の生活はなりたっているらしい。今、ちょうど何人かの修道女達が『出稼ぎ』に行ってしまっていて、修道院は人手が足りていない。

 ジゼルも畑の手伝いに行ってしまっていて、ディアヌの相手をしてくれる人はいない。一人、暇を持て余していた。

 本当は、畑の手伝いでもすべきなのだろうけれど。

 厨房に潜り込んで、昼食用のパンを一切れ盗み——いや、他の人より先にもらってきた。今日は、このまま戻らないつもりだ。

 山間にある修道院の敷地は、かなり広い。傾斜になっているところには、いろいろな花が咲いている。

 ディアヌが城ではなく、修道院で暮らしているのは、三歳の時に熱病にかかってしまったからだ。ここは都と比べると格段に空気がよく、大人になるまでここで生活するのがいい、と聞かされていた。

 修道院の敷地の端をちょろちょろと流れている小川は、山の雪解け水がしみだしてきたものだ。この水は、修道院の中に引き込まれていて、院内で使用されている。
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