不器用な殉愛
 ——望まれない花嫁であることはわかっていた。

 母の形見である花嫁衣装に身を包む。白一色のそれは、父の趣味なのだろう。余計な飾りも多かった。婚儀までの間に、その花嫁衣装を身体に合うように仕立て直し、余計な装飾は取り外したけれど、それでもまだ分不相応なように思えてならなかった。

「……本来でしたら、もっと喜ばしい日によかったでしょうに」

「それは言わない約束だわ」

 髪を結いながら、ジゼルがため息をつく。ディアヌは鏡の中の自分の顔を見つめた。

 今日、婚儀を迎える花嫁のものとは思えない青ざめた顔。少しでも血色がよく見えるよう、頬に紅を足す。

「私は、国を——そして、家族を売ったの。名前だけとはいえ、歓迎されると思う方がどうかしているわ」

 城内にある礼拝堂が、婚儀の場所だ。

 ジゼルだけを供につれて、ディアヌは部屋を出た。

 礼拝堂の中で待っていたのは、ルディガーと司祭、そしてノエルをはじめとしたルディガーの信頼する家臣達だった。

 彼らの方には目をやらず、司祭だけをまっすぐに見て進む。

 そこに用意されていたのは、ディアヌがシュールリトン女王になるという書類。ルディガーとディアヌの婚姻を証明する書類。そして、婚姻により王位継承権をルディガーに与え、ディアヌは女王としての地位から退くという書類だった。

 これで二年後、離婚した後もシュールリトン王国の王はルディガーであることにはかわりない。いや、これからはセヴラン王国に併合されることになるのだろうか。
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