不器用な殉愛
もし、と繰り返してもしかたのないこととディアヌにもわかっている。
しょせん、国を治める器ではなかったと言ってしまえばそれまでだが。
「あの時、ラマティーヌ修道院で、真っ先に俺を助けてくれたのはお前だった」
「幼い子供ゆえの傲慢でしょう。食べるものを、目の前の人間に与えればそれですむと思っていた」
「だが、少なくとも俺は助かった。俺が助かったからこそ、今がある」
彼の手が頬に触れて、ディアヌは強く瞼を閉じる。
彼が修道院を出て十年。十年ぶりに触れられた感触は——懐かしくて、胸が痛かった。
「お前のとった行動は、十六の娘にはなかなかできることじゃない。ここが、痛むだろう」
頬を撫でていた手が、首に触れ、そのまま心臓のあたりへと下りてくる。その場所が、早鐘を打っているのを彼に気付かれなければいいと思った。
「——覚悟の上です。私には、これしか選べなかったから——結局、あなたに、手を汚させてしまいました」
心臓を押さえていた手が、はっとしたように離れていく。その感触がなくなるのを、寂しいと思いかけた。
「国を取り戻すと決めた後——シュールリトン王家の噂が流れてきた。修道院から戻ってきた末の王女だけは違うと」
何も言えずに、ただ、首を横に振る。ディアヌにできたことなど、さほど多くなかった。殴られて倒れた侍女の前に身を投げ出すとか、傷を負ったものにこっそり薬を渡すとかその程度のことでしかなかった。