不器用な殉愛
「だから、二年過ぎたあと、お前を修道院になんかやらない。ここにとどまれ——俺の王妃として。だから、その時までは白き婚姻を守ってやる」
「——そんなの」
駄目だと続けようとした言葉は、途中で遮られてしまった。彼の人差し指が、ディアヌの唇を封じてしまったから。
上唇から下唇へ一本、線を引くようにしてから彼の指は離れていく。彼の指が触れていた場所がじんじんしているようだった。
どうして、彼はこんなことを言うのだろう。覚悟を決めてきたはずなのに、簡単に心はぐらつく。
「だめだ。それ以上は言わせない」
またもや簡単に言葉は封じられてしまった。自分の不甲斐なさに唇を噛んだけれど。
「ゆっくり休め。明日からは、また忙しくなる」
ディアヌの手を取り、指先にキスをしてくれる。まるで大切な宝物を扱うみたいに、大切に、そっと。
白い婚姻は守るという言葉通り、彼はそれ以上のことはしなかった。ただ、手にキスをして、お休みと言っただけ。
ぱたりと扉が閉じられて、部屋に一人残されたディアヌは困惑した。二年たった後、修道院に返さないなんて、彼がそんなことを言うなんて想像もしていなかった。
彼にとって、自分はわずかな時を共に過ごした相手でしかないと思っていたのに。
——けれど、あと二年ある。
不意にそのことに思い当たって、胸の奥が冷え込むような気がした。
このままここで過ごしてルディガーの側にいたいと——望んではいけないことを望みそうになったら?
そんなこと、考えてはいけないとわかっている。気持ちを封じるように、枕に手のひらを叩きつけた。