不器用な殉愛
「だが、そんなルディガーが、自分を裏切るような女を妃にした、なんて彼の汚名となる。俺は——反対だ」
彼は、あの夜ディアヌがした提案には納得できないというのだ。それを理解したから、ジゼルを部屋の外に出すことにした。
「ジゼル。厨房に行って、水をもらってきてくれないかしら。喉が渇いてしまったの」
「水ならそこに」
「新しくて冷たい水がほしいわ。水差しの水は、ぬるくなっているから」
「かしこまりました」
自分をこの場から遠ざけるための口実だと思ったのだろう。ジゼルは不満げな顔になったけれど、命令には逆らうことができずに部屋を出ていく。
「ノエル殿——二年後、私が生きているとはかぎりませんよね?」
「あ、あなたは——何を」
「私を、王妃の座から追いやる方法は、修道院に送るだけではないと言ったのです」
ディアヌが暗示した内容を、ノエルは理解したようだった。
つまり、修道院に送る前に命を奪うという手もある——と。ノエルは、その意図を理解したようだった。
「なぜ、そこまでする?」
「言いませんでしたか? 私の血は、ここで滅びるべきです。たぶん、ルディガーと……いえ、陛下と私の結婚を面白く思わない人もいるでしょう。それはわかっているのです」
いぶかし気にノエルは眉をひそめた。今まで、何度も繰り返し考えてきたことだ。
「それに……ルディガーは、私の命の恩人です。ルディガーが父を討つというのなら、何か一つくらい協力したかった。だって……父は、生きていては民を不幸にしかしない人だったから。その結果、私は自分がどうなってもいいと思っているのです」