不器用な殉愛
ノエルは表情を消し、そのまま一礼する。そこへジゼルが戻ってくる。
「ディアヌ様、お水をお持ちしました——あなた、ディアヌ様に何を言ったの」
「いや、特には」
以前のことがあってから、ジゼルはノエルに対して少々手厳しいところがある。今も、何気なくディアヌを背後にかばうような位置に立っていた。
「ところで、私の剣はいつ返してもらえるのかしら」
「——お前は信用できないからな」
「……何よ!」
きぃっとなりかけたジゼルの腕を、ディアヌは軽く叩いた。はっとしたようすで、ジゼルは居住まいを正す。
「もと、トレドリオ王家に仕えていたにも関わらず、マクシムに忠誠を誓っていた者達がいる。……ディアヌ様は、彼らに対して思うところがあるだろう」
ノエルが言っているのは、ヒューゲル侯爵を筆頭とした元トレドリオ家臣達のことだった。
「そうですね。彼らが主を変えるのは二度目、ですか——主を売った私のことをどう思っているかは気にしておいた方がいいかもしれませんね——陛下を攻撃する材料にする可能性もあるかもしれません」
一度、トレドリオ王家を裏切った彼らがディアヌに対して何か言えるとは思わないが。
ノエルとは、ディアヌ自身の殺害を示唆した少し前から、奇妙な共犯関係のようなものができ始めている気がする。共犯関係であって、信頼関係ではない。
「私は、私の剣を返してもらえればそれでいい。ディアヌ様の警護は——誰にも任せたくないから。どうにかならないかしら」