不器用な殉愛
「こ、これは、私がっ!」
慌てたジゼルが道具を取り戻そうとするものの、ルディガーは手を振ってそれを押しとどめた。
「終わったのか?」
終わったのか、とは何をさしているのかなんて、改めて問う必要もない。わずかに首を縦に動かす。
「父と兄を葬る場所をくださったことに感謝します」
「——そうか。他に言いたいことはあるか?」
その問いかけには、首を横に振った。本来なら、父と兄の遺体は腐り果てるまで城の前に放置されてもおかしくない。見苦しくなる前に葬ることを許されただけでもだいぶましだ。
「城の者達がすまないな。助けられているのは俺の方だというのに」
「いえ……あなたが来てくださらなかったら、きっともっとこの国は荒れていたでしょうから」
「お前のおかげで、マクシムに仕えていた者達を従えるのも楽になりそうだ。もっとも、サビーネ王女が生きていたら、楽だったのかもしれないな」
ルディガーが口にしたのは、母ブランシュが前の夫——トレドリオ王との間にもうけた娘の名前だった。彼女の命と引き換えに、母は父に嫁ぐことを選択せざるを得なかった。
その一年後に生まれた自分の存在が、どれだけ母を苦しめていたのだろうと思うと胸が痛くなる。
「そうですね。あの時——熱病で命を落とすのが私だったら、きっと——」
ルディガーが言いたいこともわかる。父の家臣達は、父に忠誠を誓っていたわけではなかった。もちろん、強い者に組することを選んだ者にとっては、父の下というのは楽な立ち位置だっただろう。