不器用な殉愛

 形式上、トレドリオ王家は失われ、その後を継いだシュールリトン王家の、生き残りがディアヌ——王太子は行方不明——だ。ディアヌがルディガーに地位を譲るというのならば、従うしかないのだろう。

 ごくわずかに、父に忠誠を誓っていた者達も、ディアヌの判断には従うしかないはずだ。もし、サビーネ王女が生きていれば、彼女を女王に、トレドリオ王家を復興させた方が、人心を容易に集めることができただろう。ルディガーの言いたいことはよくわかる。

「私……できる限りのことはしたつもりなのですが」

「姫様!」

 うっかり、結婚前の呼び方に戻ったジゼルが声を上げる。彼女の声の鋭さに、またいたたまれない気がした。

「ほら、あなたが余計なことを言うから——姫様は、姫様は……!」

「そういうつもりじゃなかった。サビーネ王女が生きていれば、お前にこんな思いはさせないですんだだろう、と」

 それは別にかまわないのだ。ルディガーに王家を売ると決めた時、自分を悪く言う者が続出するであろうことはわかっていた。

「私、別にそれはいいんです。だって——皆が必要としているのは私ではなく、あなただから」

 征服する者とされる者。ルディガーと初めて顔を合わせた十年前とは、互いの立場もまったく変わってしまった。
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