不器用な殉愛
「ヒューゲル侯爵は、私一人生き残ったことが気に入らないようです。あの方は——ひょっとしたら、トレドリオ王家を存続させるために、父に組したのかもしれませんね。あの時は、姉はまだ母のお腹の中でした」
ヒューゲル侯爵にとっては、父の血を残すことが何より大事だったのだろう。それを考えれば、彼の対応も納得できるものであった。
「……トレドリオ王家に忠誠を誓っていた人も、シュールリトン王家のもとで苦労を強いられた人も、どちらも私が気に入らないのはわかっています」
ひょっとすると、これから先何度も命を狙われるような事態が続出するのかもしれない。でも、今はそれでもいいとさえ考えている。
「ですから、二年の間に——きちんと形を整えてくださいね」
「だから、俺はお前を手放すつもりはないと言っている。お前をこのまま、俺の側に置いておくのは俺の意思だと——二年の間に、周囲にちゃんとわからせる」
ルディガーがそう口にした時には、三人は出入口のところへと到達していた。中から、ノエルがあわただしく飛び出してくる。
「——まったく、どこに行っていたのかと思ったら。ディアヌ様に関わるのはほどほどにしておけとあれほど」
「……あなた、ディアヌ様に文句でもあるの? この方がどんな気持ちであなた達の前に肌をさらしたと?」
冷ややかな目をディアヌに向けるノエルに、ジゼルが食ってかかった。手には何も持っていないジゼルの剣幕に、ノエルの方が押され気味だ。
「ジゼル、ジゼル……その件については、あの、あまり……」
父か異父兄に気付かれ、脱出前にとらえられた時を想定し、絵図が発見されては困るとコルセットの中に縫い込んだ。