不器用な殉愛

「——傭兵なら、別に俺を助ける必要もなかったんじゃ?」

「姫様の味方は、一人でも多い方がいいからね。もし——いつか、あんたが大人になって。その時、この修道院のことを覚えていたら、姫様の力になってやってほしい」

「覚えていたら、でいいのか?」

「……あんたは、人から受けた恩を忘れるような子じゃないって信じてるから……いいね。どんな目にあっても——生き延びて。生きてさえいれば、なんだってできるんだから」

 ルディガーは、祖母の顔を知らない。けれど、もし、祖母という人がいるのなら、このような人ではないかと思った。

 最後にクラーラ院長は、ルディガーをぎゅっと抱きしめてくれて、修道女が御者を務める馬車に乗せてくれる。

「しばらくの間は、ここで辛抱していて。見回りの兵士達にごちゃごちゃ言われたくないから」

 たぶん、御者を引き受けてくれた修道女も、元傭兵か現役の傭兵なのだろう。落ち着き払った様子で、ルディガーを箱の中に隠してくれた。隠れたルディガーの上に、小麦を入れた袋が載せられる。

「もし、兵士に見とがめられたら、近隣の村に食料を届けに行くというから——あなたはじっとしていて」

「わかった」

 クラーラ院長の予想通り、兵士と何度か鉢合わせたけれど、修道女が御者を務める馬車ということで、さほど詳しく調べられることはなかった。

 箱のふたもあけられたがおざなりで、手前の方に置かれていた箱だけが開かれたようだ。

 こうして、半日ほど窮屈な思いをすることにはなったが、安全と判断されるところまで送り届けられ、ルディガーは修道女に別れを告げた。
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