不器用な殉愛
「……よし、出発だ」
この場にとどまっている仲間はわずかに二十名。護衛の兵もほとんどいない。だが、それでも——目の前にやらなければいけないことは山積みだ。
ルディガーの生存を恐れているのか、国境を越えるのはなかなか難儀だったけれど、ランディック王国に無事に到着することができた。
だが、ルディガーの予想通り、ランディック王はルディガーをもてあましているようだった。妻である元セヴラン王女の口添えがなかったら、そのままルディガーをマクシムに突き出しかねない勢いだった。
「ごめんなさいね——あの人も、悪い人間ではないのだけれど、マクシムを恐れる気持ちの方が大きいみたいで」
「よく理解していますよ、それは。ひとまず、国境の警備は俺達に任せてください——俺の名前は、傭兵のルディック。今後はそう呼んでください」
ルディガーの名を出せば、マクシムに生存を気づかれる。それを避けるために、当面は偽名を名乗ることとした。
さらには黒い髪を薬剤で明るい赤にする。クラーラ院長がわかかった頃は、こんな髪の色をしていたであろうと思われるような。
「——傭兵のルディック。悪くはないですね」
そう言って、伯母は微笑む。彼女達がそう言ってくれれば、それだけで十分だった。
「国境の城を一つ、傭兵のルディックにまかせることにいたしましょう。いえ、もちろん、城主としては今いる我が国の城主がいますが——建前上、ということで」
「ありがとうございます、伯母上」
まずは、根城を確保した。それだけで十分だ。