不器用な殉愛
任された国境の城とは、元セヴラン王国と現ランディック王国の国境だった。そちらにはランディック王国の貴族がいるが、彼には伯母の息がかかっているらしい。
そして、彼は、軍事的な面については、ルディガーに十分してくれた。
城に入って、ルディガーが真っ先に行ったのは、ラマティーヌ修道院の修道女達が無事に過ごしているかどうかということだった。
特にマクシムの追及の手が、修道院に入ったということもなさそうだ。修道女達は、ルディガーが滞在していた頃と同じような生活を送っているらしい。
「それと、他にもう一人——修道女見習いでしょうか。幼い少女と、そのおつきと思われる若い娘。彼女達も特には異常はないようです」
「……そうか」
調査にやった者の報告に、ルディガーはほっと息をついた。ディアヌが無事でいてくれるというのならば、それでいい。
「その幼い少女というのは、何者ですか?」
ノエルが不思議そうな顔をして問いかける。ルディガーは肩をすくめた。
「マクシムの娘だ。おつきの若い娘は、クラーラ院長の孫娘だぞ」
「——そのような者がいたのですね」
「母親は、元トレドリオ王妃ブランシュだそうだ」
ブランシュの名に、はっとノエルは息をついた。国を亡くした悲運の王妃の話は、ノエルの耳にも届いているらしい。
「夫の娘を守るつもりでマクシムに嫁いだつもりが、夫の娘だけ熱病で死んだ——ということだ。たぶん、マクシムの娘だけを手元に置いておくのが嫌だったのだろう」
思い出されるのは、一人修道院の庭で遊んでいた姿。修道院の敷地から外に出ることも許されず、大人達に囲まれて。
母親にも父親にも捨てられたのだと——そう嘆いていたのを思い出した。
−−−
「それは——いたしかたのないことかと。ブランシュ王妃も、今は病がちだという話では?」
「俺はそこまでは知らない。ただ——いつまでも、あの場所にディアヌを置いておくのはどうかと思っただけだ」
たぶん、そこにあったのは、幼い妹を守る兄にも等しい感情だっただろう。文字の読み書き、簡単な計算、それに剣の稽古。あの院長が、ディアヌをどのように育てようとしているのかまではわからなかったけれど、自分の身を自分で守る術だけは与えようとしているのだと思った。