不器用な殉愛
今すぐにでも兵をあげたいという気持ちがないと言えば嘘になる。だが、ルディガーは思い知らされていた。
戦において準備はとても大事だ。父が負けたのは、マクシムの侵攻に対し、準備が遅れたからだ。マクシムが、いずれそう出て来るであろうことはわかっていたのに、甘く見ていた。
それと比べれば、ラマティーヌ修道院の修道女達は、事前に準備をきちんと終えていた。
守りをかため、武器を手に取ることをためらわず——それは、神への信仰を持つ者としてはどうかと思われるけれど、それでも侵入してきた盗賊達をきっちりと撃退してのけた。
元は凄腕の女傭兵だったというクラーラ院長は、あの修道院が、今は失われたセヴラン王国との国境にあるということを常に頭に置いていたのだろう。国境近辺は、しばしば治安が乱れ、生活の場を奪われた者が盗賊化する。
おそらく、修道女達の『出稼ぎ』は、戦いにおける感覚を忘れないようにするものでもあったはずだ。
「あ、そうだ」
何事かを思い出したかのように、ノエルが手を打ち合わせた。
「頼まれていたラマティーヌ修道院の娘の件ですが——城に戻ったようです」
「そうなのか?」
「はい。十四歳になったのを契機に城に戻るようにと命じられたようで。おそらく数年後には、子国内の貴族に嫁がせるつもりなのではないかと。今すぐでもおかしくはないが——おそらく、まずは、貴族の子女としての礼儀作法を学ぶところから始めるのではないかと」
ノエルの言葉に、思わず眉間に皺が寄る。ディアヌが、マクシムのもとに戻るというのか。