不器用な殉愛
マクシムには、あまりいい噂がない。マクシムが国を乗っ取り、国の名前をシュールリトン王国と変えてから、王城で働く者達は常にぴりぴりしているのだそうだ。
だが、ディアヌがマクシムの娘だという事実は消しようがない。父親が娘に戻って来いというのであれば、ディアヌとしては従わざるを得ないだろう。
「……そうか」
自分の命令に従わない者がいれば、その場で首を落とす。殴る蹴るの暴力だって日常茶飯事だと聞いている。
そんなところで生活し、あの少女の心は無事でいられるのだろうか。
目を閉じ、ディアヌの顔を思い浮かべようとするが——ルディガーの覚えている彼女は六歳の少女だ。あれから八年たち、適齢期を迎えようとしている彼女は今頃どんな成長をしたのだろう。
「あまり、気にしてもしかたないんじゃないですか。命の恩人とはいえ、かかわったのはほんのわずかな時間でしょう」
ノエルが真面目な表情になる。ルディガーは首を横に振った。
「命を助けてもらったからというわけじゃない。ただ——気になってしかたがないだけだ」
その感情に、どう名をつけたものかルディガーにもわからない。
「さて、準備を進めるぞ。旧トレドリオ王家の家臣達とも連絡がついた——俺達の決起に合わせて、内部からも呼応できるように、連携してくれるらしい」
「——もう少し、ですね」
ノエルの表情が、少しほっとしたもののように柔らかくなった。ノエルは、ルディガーにとって友人でもあるが、頼れる家臣でもある。
「——ああ。もう少し、だ」
まだ、もう少し、時間がかかる。国を取り戻すまで——あの少女の心が、つぶれなければいいと思った。