不器用な殉愛
◇ ◇ ◇
ルディガーが兵をあげたのは、それから半年後のことだった。
国境を越えたところで、敵の兵士達と一度、激突した。なんなく彼らを下し、さらに先へと進む。
マクシムが滅ぼした国を次から次へとたいらげ、あっという間にシュールリトン王国本土へと迫る。
ここ数年、マクシムの横暴はますます激しくなっているという。民の心は彼から離れていたものの——まだ、恐怖により従っている者も多い。
そんな中、最も助けになったのは、旧トレドリオ王家の家臣達だった。王を奪われ、王妃を奪われ、そして二人の間に生まれた王女も奪われたという事実が彼らを駆り立てたのだろう。
「——国を取り戻す」それが、彼らの合言葉になっているようでもあった。協力の代償として、ルディガーに求められたのは元の領土の何分の一かでかまわない。トレドリオ王家の復興であった。
サビーネ王女亡き今、直系の王族は残っていないが、前国王の従兄弟の息子が一人生き残っているという。彼を王とし、トレドリオ王国の復興を——というのが、元家臣達の願いであった。
「——ヒューゲル侯爵からも、使いの者が来ております。近いうちにマクシムに呼び戻されることになるだろう。その場合には、城の内部から呼応して動く、と」
「そうか。ヒューゲル侯爵と言えば——」
トレドリオ王国がマクシムに攻め滅ぼされた時、真っ先に彼の側に寝返った男だ。またもや、主を裏切ろうというのだろうか。
そうやって、生き残りをはかろうとするのも気持ちとしてはわからなくもない。今まで、国境に追いやられ、苦しい戦を任されてきたのだから、よりよい条件を求めても当然だろう。