恋雨
しかし、どちらも気が進まないのは確かだった。

あと10分もしないうちに6時半になる。

 校舎は閉められ、下手すると真っ暗な校舎の中に閉じ込められかねない。
大体共働きの両親が家に帰ってなかったら濡れて帰ることに決定だ。

こんな時、携帯があったらなぁ~と思う。

現代人の90パーセントが持っている携帯を私は持っていない。

高校生になるまで携帯電話は持たせないというのがうちの両親の教育方針だからだ。

スポンサーがそう決めている以上、私はそれに従うしかなかった。

ますます惨めな気持ちになってきた私の視線の端に何か黒いものが横切った。


 バサリ。


耳をかすめる音は聞き覚えのある音だ。

視線を横に動かすと黒い傘を開く男子生徒の姿が目にはいる。

 大きな男物の傘。

ああ、そうか。

傘立てに残されていた持ち主がこれから帰ろうとしているんだ。

「佐々木さん?」

黒い傘の持ち主が私の名前を呼んだ。

「小澤くん……」

黒い傘の持ち主は私のクラスメート、小澤琢磨だった。

これといって目立つところのない小澤くんは、頭は良いが印象が薄い男の子だ。

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