恋雨
もし相手がクラスでも一番カッコ良くて人気のある山口くんだったら、こんな事も考えずに喜んで相合い傘で帰っただろうと思うと己のことながらワガママな女心に呆れる思いだ。

「もしかして……佐々木さん、家の人が来るの待ってた?」

小澤くんの申し出に返事もせずに考え込んでしまった事で勝手に勘違いをしたらしい小澤くんは「また明日」と軽く言うと、そのまま立ち去ろうとする。

まるでそんな私に追い討ちをかけるかのように私の背後では無愛想な用務員が校舎の玄関の鍵をかけ始めたのが目に入った。

ええい!
乙女心が何だ!

こんな状況で相合傘の相手を選り好みしている場合じゃないだろう!

「小澤くん、待って!」

私の声に小澤くんが振り返る。

「ごめん、途中まで一緒に入れてくれる?」

冷静に考えれば何とも失礼な私の態度に小澤くんは怒るでもなく、私の方に戻ってきて傘の半分を私に差し出したのだった。

小澤くんってこんな人だったんだ……。

今日は今まであまり知らなかった小澤くんの事を知る不思議な一日になりそうだ。
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