恋雨
小澤くんにも嫌なことがあるのだということが私の中では新鮮に映った。

私の中で小澤くんは地味ながらも何でもソツなくこなす男の子というイメージが大きかったからかもしれない。

この人は私と同じ中学生なんだ。

どんなに大人っぽく見えていても大人から見たら私も小澤くんも大して変わらない。

子供なんだ。

ようやく沸いて来た親近感に二人の間に流れる沈黙も気にならなくなってきた。

それどころか、ほんの少し私より背の高い小澤くんの隣がみょうに居心地がよく感じられるから不思議だ。

「佐々木さんの家ってこの辺?」

そう声をかけられるまで、自分の家のすぐ近くまで来ていたことに気付かないほど、私は小澤くんの隣に馴染んでしまった。

「あ、うん。そこの道を曲がったらすぐ」

「じゃぁ、家の前まで送るよ」

「うん……」


小澤くん私を家の前まで送ってくれると「じゃぁね」もだけ言い残して、私に背中を向けた。

寂しい…。

私はその小澤くんの背中を見送りながら、何だか寂しい気持ちに襲われていた。
胸に、ぽかりと大きな穴が開いたような感覚を味わった。その時に私は小澤くんに『ありがとう』の一言も言っていなかったことに気付いた。
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