【短】カンタレラに侵されて。



が、すぐに扇風機は再びあたしに向けて固定された。

ケタケタと笑った先生の手によって。


「いーよいーよ、おまえは暑いんだろ?」

「そうですけど……何がしたいんですか、先生は」

「さあなー。って、昼飯食うんだろ? おれも一緒に食っていいか?」


言葉が詰まってすぐには答えられなかった。

普段の先生は職員室でお昼を食べていて、あたしたちの教室では食べていない。

だからこそ、この誘いは珍しくてすんなりと頭に入ってこなかった。


「……あ。ドウゾドウゾ」

「なーに片言になってんだよ」


クスクスと笑った先生は、弁当を持ってくると言って教室から出ていった。

先生はすぐに戻ってきて、あたしと一緒に弁当を食べた。

ポツリポツリと世間話をしたら、あっという間に会話はなくなってしまった。

外のセミが鳴き叫ぶ声と、お互いに弁当を食べる音だけが残った。

けれども、それが居心地悪いというわけではなく、ただ無性に落ち着けた。

< 13 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop