【短】カンタレラに侵されて。
あたしの手の中には、先生からもらったアイスキャンディーの棒が残っている。
きっと、形に残る先生との数少ない想い出の一つになるのだろう。
嬉しいはずなのに、見ると胸が苦しくなった。
急いでポケットの中にしまう。
俯くと視界が歪んで、あたしは慌てて顔を上げた。
家の前で泣けるはずなどなかった。
泣きそうな顔を見られたら、お母さんに心配をかける。
あたしは頭を振って、気持ちを切り替えた。
パシンと両頬を叩けば、大丈夫。
あたしは泣かない。