【短】カンタレラに侵されて。
実を言うと、あたしは目の前のこの先生に『恋』してる。
黒縁眼鏡からのぞく一見すると冷たそうな切れ長の目が、案外優しさもまとうことを知ったあの日から──
なーんて言えば大げさだけれど、きっかけは本当。
例のごとく高校生活最初の中間試験でも悲惨な点数を取ってしまったあたしは、それはそれは目の前の先生にこってりと絞られた。
しかし、ありがたいことに先生はあたしを見捨てることなく、放課後も毎日勉強を教えてくれた。
あたしがそれまで解けなかった問題を自力で解けるようになると、先生は自分のことのように嬉しそうに目元を緩ませた。
教えてもらっていたときは呆れの混じった冷たい視線だったから、あたしは初めて見たときかなり驚いた。
そして、またそんな先生を見たくてあたしは勉強を頑張った。
多分、このときにあたしは恋に落ちた。