夢恋
 ……なーんて、アニメや漫画ではなるけど私は、死んでもならない。
 こいつにときめくとか、絶対ない。

「ハハハ……それは、どうも」
「本気だよ」

 適当に受けながすと、九条君が真面目な顔で私を見つめてそう言った。
 嘘でしょ?やめて。こういうアニメとか漫画みたいな場面、私には必要ないよ。
 大体の流れで行くと、九条君は明日あたりから私につきまとってきて、私は女子たちにひがまれて、校舎裏に呼び出されてリンチされそうになる。そうなったところを九条君が助けるっていう一連の流れだろうな………。そして恋に落ちるんでしょ?
 そんな恋愛漫画のお決まりみたいなの嫌だよ。
 めんどくさい。

「申し訳ありませんが、からかうならもうちょっとからかいやすい子にしたほうがいいと思うよ?私には、あなたの望んでいる反応はできないので」
「……ふはっ!何それ〜……。神村さん、変だ変だとは思ってたけど、まさかここまでとは……」

 人のこと“変”“変”って、失礼な奴!!

「ごめん。からかったら、どんな反応するかなって思ってたけど、表情一つ変えなかったね。さすが、神村さん」

 さすがの意味がわからない……。
 っていうか、やっぱりからかってたんだ。何、こいつ。

「そうやって、嘘ばっかりつかないでっ。私は、あなたのことなんて、絶対好きにならない!」

 何で私、怒ってるんだろう。
 バカみたい。バカみたい。
 こんな奴に、構う必要ないのに……。

「……ごめん」

 え……?

「ごめん」

 2、2回目……?
 どうしていきなり謝って……。
 驚きつつも、それを顔に出さないようにする。

「ちょっと、調子乗ったかも」

 そんなの元々でしょ。

「出会ったときから、君は調子乗ってると思うけど」

 そう言うと、九条君は驚いたように目を見開いて私を見る。
 な、何?いきなり。

「あー……。ははは……。あははっ!—————よかった」

 急に笑い出して、そんなことを言う九条君。
 ごめん九条君。私も九条君に謝るよ。
 —————今の行動に、ちょっと引いてしまった……。
 だって、一人で笑い出して「よかった」って、怖すぎるでしょ?異常者だよ。

「えーっと……く、九条君?」
「ん?」

 コテンと首をかしげる九条君。
 ほんと、黙ってればとてつもなくかっこいいよ。

「急によかったって、何?怖いよ」
「…………ううん。何でもない」

 九条君が目を伏せる。
 目を伏せると、長い睫毛が目元に影を落とす。
 綺麗……。思わず見とれちゃうかも。
 不覚にもそう思ってしまった。

「どうしたの?」

 黙っている私の顔を覗き込むように見てくる九条君。
 そして、ニヤッといたずらっ子みたいに笑ってこう言った。

「もしかして、俺に見とれてたの?」
「--ーーーーっ……」

 図星すぎて何も言えない……
 顔に熱が溜まっていくのがわかる。
 どうしよう。顔が熱い。
 思わず俯くと、九条君が顔を覗き込んでくる。

「え……」

 赤くなった私の顔を見て、なぜか九条君まで顔を赤くする。
 すると、照れたように私から離れて、顔を両手で隠そうとしている。

「その反応は……予想外」

 顔を真っ赤にしている九条君は、小さい子みたいで可愛かった。
 まぁ、もともと可愛い顔してるしね。かっこ可愛いっていうのかな……?
 って言うか、そんなことしてる場合じゃない。
 私は、腕時計で時間を確認してから、九条君を見る。

「帰ろう。九条君。私、今日塾があるの」
「えっ。塾行ってたの?」

 意外と言わんばかりに目をパチパチさせる九条君に、少し腹がたつ。

「どうして意外なんですか?」
「だって……」

 九条君は、何かを思い出すかのように目を細める。

「神村さん、俺より合計点数低いよね?っていうか、そこまでよろしくない」

 おもわず吹き出しそうになる。
 どうして私のテストの点数知ってるの!!?
 ギョッとして九条君を見ると、九条君はにんまりと笑う。

「後ろの席にいると、なんでも見えるんだよ」

 ニヤッと嫌な笑いを浮かべている九条君。
 もしかして、点数表を見られてたのっ!?
 さ、最低!これだから男って嫌いなのよ。デリカシーがないし、ガキみたいなことしか言わないし、「俺何でも知ってますよ」みたいな顔するし。

「勝手に見ないでよ!!」
「見たんじゃないよ。見えただけ。見るつもりもなかったよ」

 両手をヒラヒラさせながら、九条君が私にゆっくり近づいてくる。
 急なことで距離を離すこともできなくて、一気に九条君との距離が近くなる。

「な、何ですか?」
「ねぇ、神村さんって今彼氏いないよね?」

 ……はぁ?どうしていきなりこいつにそんなこと言われないといけないわけ?

「いないですけど。だからどうしたんですか?」
「好きなやつは?」
「……何?それ教えてどうなるの?関係ないでしょ」

 そう言って歩き出すと、九条君は黙ってついてきた。
 急におとなしくなった。まぁ、そっちのほうが静かでいいけど。
 スタスタと自分のペースで歩いていると、首の後ろに違和感を感じた。
 なんか、冷たい。
 思わず首をすくめて後ろを向くと、九条君がペットボトルを両手に持ってクスクス笑っていた。

「も、もしかして……それを首の後ろに当てたの?」
「うん。ってか、気づくの遅すぎ……」


 
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