夢恋
「……っ九条君なんて、一生好きにならないです!!!」

 そう叫んで、九条君から逃げるように走って帰る。
 幸いにも、私の家は学校から近くて五分くらいで着く。

「はぁ………」

 マンションのエレベーターの前で、息を吐く。
 あんな目立つ人に話しかけられるとか、冗談じゃない………
 そう思いつつも、少しだけドキドキとなる心臓をごまかすように、乱暴にエレベーターのボタンを押した。
 私、九条双子は絶対に好きにはならない。
 絶対に!!!!!

* * * * *

「あ。おはよう。神村さん」

 朝。7時45分に登校すると、九条君だけしか教室にはいなかった。

「九条君が朝こんなに早いなんて珍しいね。……に何かあったの?」
「神村さんと少しでも話したくて」

 ニコッと天使のような笑みを浮かべる九条君。
 怖っ。

「いつか九条君がストーキング行為を行わないか心配です」
「俺も神村さんが可愛いからストーカーされないか心配だよ」

 犯人はお前だろ。
 九条君を横目で睨む。

「…………はっきり言って、迷惑です」
「………どうして?」

 どうしてって…………

「人と、関わるのが、面倒くさい」
「神村さん、学校に何しに来てるの?」
「え。部活」
「即答!?」
「それ以外にありますか?」

 私は、顔をしかめながら九条君を見つめる。
 すると、九条君は顎に手を添えて考え出す。
 少しすると、パチンと指を鳴らした。

「友達と話すとか、好きな人を見るとか」
「………私、友達と必要以上に話すことはしたくないですし、好きな人なんていません」
「え〜……じゃあ、神村さんは学校に何しにきてるの?」

 頬をふくらませながら九条君が言う。

「だから、部活です」

 カバンの中の教科書を机の中に入れながら言う。

「……………勉強は?神村さん、授業まともに聞いてない俺よりテストの点数悪いでしょ?」

 そう言われて、教科書を入れる手が止まる。

「うるさいです」
「あのさぁ……何で敬語なの?俺のこと、奏多って呼んで。あいつと混ざるじゃん」

 あいつって、双子の兄だっけ?弟だっけ?
 まぁ、いいか。

「わかった。奏多」
「え………」

 私がそう言った瞬間、奏多は顔を真っ赤にして黙った。

「………ど、どうしたの?」

 驚きながら聞くと、奏多は口元を手で押さえる。

「か、神村さんって、変わってるよね」
「え……?」

 意味がわからず首をかしげると、奏多が顔を真っ赤にしたまま頭をかいた。

「あ……ああ!もしかして、本当にさらっと呼ぶと思わなかったの?」

 思わず口元が緩んだ。
 何か……

「奏多って、意外とかわいいね」
「……!?かわっ!?可愛くねーし!!」

 椅子からずり落ちそうになりながらもそんなことを言う奏多。
 っていうか、私、どうしてこいつと普通に話してるんだろ。

「あ!そう言えば!昨日の、ドラム。あれ、上手だったね!ねぇ、吹奏楽部に入らない?」

 私がそう言うと、奏多の顔色が一変する。
 さっきまで元気に話してたのに、今は口を閉ざして俯いている。

「………?かなーーーーーー」
「っ……入らない!!」

 ビクッ。
 奏多が急に大きな声で叫ぶ。
 そして、私の方を見る。
 その目は、どこか怯えてるように見えた。
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