夢恋
「か、なた………?」

 驚いてか、恐怖か、私の喉は乾燥して、上手く声が出なかった。

「あっ………ごめん…」

 私の様子を見て、慌てたように謝る奏多。

「え…ううん。別に…」

 そんなに嫌かな。吹奏楽部に入るの。
 わかんないなぁ…奏多って。

「ねぇ、かなーーーーーーー」
「おっ。奏多!おはよっ」

 私が再び話しかけようとすると、奏多の友達が入ってきたから、そこで、会話は終わった。
 何だったんだろ……
 様子が、変だった……

「おい。神村」
「……あぁ、菊川(きくかわ)か。なに?」

 机に座って呆然としていると、一緒に図書委員をしている、図書委員委員長の菊川 剣(けん)がやって来た。
 背が高くて、たまに鬱陶しいやつ。同じ吹奏楽部でテナーサックスを吹いている。
 ちなみに、彼女持ち。

「いつも遅刻ギリギリなのに、今日は早いね」
「ん?どうした?元気ない?」
「………別に」

 私はこんな性格だけど、友達がいないってわけじゃない。
 話す相手には困ってない。話を合わせるのも得意だし。

「別に。それより、もう新しい楽譜の譜読みした?」
「全然。聴いたけど裏メロばっかで皆無」

 そう言って肩をすくめる菊川。
 正直、こいつ身長が高いから、見上げないと話せないから首が痛い。

「ちょっと縮め」
「お前が伸びてないんだ。神村」
「!……あんたがデカイの!」
「菊川君。もう、チャイムが鳴るよ」

 私と菊川が話していると、急に奏多が割って入って来る。

「あ、あぁ」

 菊川は、頷いたあとに、ニヤッと笑うと自分の席に戻って行った。

「え……奏多」

 キーンコーンカーンコーン。

「………音羽さぁ…ちょっと、他の男と仲良くしすぎ」

 お、音羽!!!??

「勝手に下の名前で呼ばないで!」
「え……ダメだった?もしかして、意識してる?」

 ニヤッと笑いながら奏多が言ってくる。

「してない。あと、私が誰と話してようと、関係ないです」

 そう言って奏多から目をそらす。
 奏多は何か言いたげだったけど、口を閉じて諦めたように椅子に座った。




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