不埒な先生のいびつな溺愛
解きながら気づいたが、久遠くんに見られながら数学を解くことは、あまりに心地が悪かった。

理進クラスの秀才にとったら、こんな問題は簡単だろう。久遠くんはそう思いながら見ているのかもしれない。

手元はちょうど、解答を見てもちんぷんかんぷんな問題にぶち当たっており、プルプルと手が震えた。

ついに私は視線に耐えきれなくなり、苦笑いをして手を止めた。

「ハハハ、ほんと、頭悪くて困っちゃうよね」

思わず口から出てきた自虐の言葉に久遠くんは反応してくれず、まだ私の手元を見たまま黙っている。
自分が恥ずかしい。

「これ、公式があんだよ」

ずっと黙っていた久遠くんが口を開いた。

「え?」

「解答だと使ってねえが、このときに使える公式がある。文系ならわざわざこんなもん導き出すより、公式丸暗記するだけで十分だと思うけどな」

「ちょちょちょ、どんな公式なの?教えて」

久遠くんは私のペンをするっと奪い、解答の余白にさらさらと公式を書き始めた。

彼の大きな手がペンを包むように持ち、書かれた文字は綺麗に整っていて、それでいてスピード感のあるものだった。

それを書いているときの久遠くんの余裕のある表情に思わず見惚れてしまいそうになった。

「これ。何回か当てはめてみれば覚えられる」

さっそく教えてもらった公式を使い、問題を解いてみた。最中は無理やり数字を当てはめていくだけとなったが、答えが出てみるとこの公式の仕組みが分かっていくようにするすると解けていく。

「ほんとだ!凄い!」

あまりの爽快感に、私はキラキラとした子供のような目で隣にいた彼を見つめた。

久遠くんは少し困った顔をしていたけれど、彼の耳はまた赤く染まっていた。
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