不埒な先生のいびつな溺愛
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──久遠は大学二年生になったとき、駅近くでバーテンダーのアルバイトを始めた。

夜の時間帯であることと、時給の高さのみで選んだバイトだったが、久遠自身はまったく向いているとは思っておらず、客との会話も開店前の飲酒も、日に日にストレスとなっていた。

しかし客受けは良かった。
そのルックスと、酒の知識についての記憶力の良さで、久遠目当ての客は多かったのだ。

「あれ?もしかして、久遠?」

グラスを布巾で磨いていると、見知った顔が客としてやってきた。

大学デビューを体現した身なりをしたその男は遠慮せずカウンターに立っている久遠の前に座った。

久遠はそれが高校時代のクラスメイトだということは覚えていたが、名前は出てこなかった。

「ひでーな、忘れちゃった?桜井だよ」

「……ああ、覚えてる」

グラスを磨きながら簡単にそう答え、桜井に対して一方的にメニューを渡した。
正確には、“思い出した”だが。

「俺J大行っててさ、よくこの駅使うんだよ。久遠はK大なんだろ?すげーよな。ここでバーテンやってるなんて思わなかったけど」

世間話は苦手だった。

久遠は基本的に相手に興味を持たないため、質問が続いていかない。
桜井はその点、同級生であるため多少の理解があったが、やはり久遠は人と話すことには常にストレスがあった。
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