不埒な先生のいびつな溺愛
「え、じゃあ噂はデマだったのかー。まあそんな怒るなよ、別に秋原って結構良かったじゃん、ブスじゃねぇし」

ついに久遠は、目の前の桜井に対し、はっきりとした嫌悪を感じた。

美和子のことを他人に語られるほど苛立つものは、彼にとって他にはなかった。

彼女に対する“ブスじゃない”などという評価は、久遠にとっては褒め言葉でも何でもなく、そもそも彼女のことについては、褒めることも貶すことも、他人にされるのであれば、どちらにせよ嫌だった。

大学に入ってどんな女性を見ても目に入らず、久遠は美和子のことしか、好きだと認識できなかった。

美和子のことを思い出すと、彼にはまるで走馬灯のように、自分に笑いかけたときの彼女の表情ばかりが思い浮かぶのだ。その思い出に比べれば、他の周りの女の笑顔など、全てが嘘のように霞んで見えた。

「なぁ、俺またここ来るわ。実は一年浪人してっからさ、大学のダチとは微妙に居心地悪いんだよ」

桜井はそう言った。
久遠は「もう来るな」という顔で、「勝手にしろ」と答えた。
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