不埒な先生のいびつな溺愛
「なんだそりゃ。てかさ、そもそも勉強やめたのは何でだったんだ？聞けよ紗耶香。久遠って俺の高校でずっと校内一位だったんだぜ」

紗耶香というその女に向かって桜井が言うと、彼女は久遠を見て分かりやすく目を輝かせた。

久遠はこの紗耶香とは、桜井を媒介しないと話せない。それは彼女と寝ても変わらなかった。

「……ちょうど母親が男作って逃げた時期だったからな。勉強しろって言う奴が、家の中からいなくなった」

久遠がそう答えたことで、さすがに桜井と紗耶香も、顔を強張らせた。

久遠にとってこの話は、自身の中ではもう鎮火していることであり、打ち明けることに抵抗はなかった。重大なことだという意識がそもそもないのだ。

「マジかよ。大変だったんだな。知らなくて、なんかごめんな久遠」

「私も知らなくてごめんね、辛いことあったらなんでもうちらに話してね」

久遠は眉を寄せた。

「別にお前らには関係ねえことだろ」

紗耶香と桜井は顔を見合わせた。

久遠の言い方に慣れている桜井は苦笑いをしたが、紗耶香は久遠を睨んでいた。彼女がこのバーに来るのは、この日が最後となった。
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