不埒な先生のいびつな溺愛
自分の身の潔白を証言するとともに、私は女性をとっかえひっかえしていた久遠くんに対して不満を言った。

伏見さんの家に行ったくらいで咎められるならば、久遠くんの今までの女性関係だって責められなければおかしい。

久遠くんは下を向いてしまった。

しかし彼は畳に座り込んでいる私の方にまた重心を傾け始め、湿っぽい畳がギシギシと音を立てた。

「……どんな女を抱いても、美和子の代わりにはならなかった」

私にはもう言い返す言葉は残っていないくらい、久遠くんは私への執着を隠そうとはしてくれない。

彼はじわじわと私を押し倒してくる。

突然のことすぎて、迫ってくるその体を弱い力で押し返した。

「ど、どうして?今まで全然そんなこと言ってなかったのに……。どうしてこんな突然、そんなこと言うの?」

「言っただろ。こっちはずっとだ。十二年前からずっとお前に会いたかった。去年、お前と再会したとき、玄関先で他人行儀に“先生”なんて呼びやがって。……そのとき俺がどれだけ絶望したかお前に分かるか」

「だって、それはっ」

「仕事だろ?お前は仕事で俺に会いに来て、作家の俺にしか興味がなかった。違うのかよ」

違う。分かってないのは久遠くんの方だ。

久遠くんは何ひとつ、私に言葉をくれなかった。そうやって一人で気持ちを押しやって、私の気持ちをぶつける機会は一度だってくれなかった。

だから私も自分の気持ちを押し込めるしかなかったのだ。

本当は私がどんなに久遠くんを求めていたのか、彼の方こそ分かっていない。
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