不埒な先生のいびつな溺愛
久遠くんの体は、完全に私に重なった。

体の大きな彼の、まさかこんな風に下敷きになる日がくるとは夢にも思っていなくて、彼の顔の向こうに天井が広がっている今の景色はまるで幻のように感じた。

私が私じゃないみたいだ。

「え、今?ちょっと待って、今から、するの?」

軽くパニックになりながら、まだ彼の腕と胸板の間から逃げようとしたけれど、すぐに両手首をがっしりと掴まれてしまった。

「今からじゃ何が駄目なんだよ」

久遠くんは息を切らせながらそう言った。

しかし、私がオーケーと言うまでは、彼はこのおあずけ状態を保ってくれていて、私は彼のそんなところに優しさも感じていた。

久遠くんは私を強引に意のままにすることなど一度もしなかった。ワガママで気難しいことばかりだと思っていたけれど、いつだって私の嫌がることはしないのだ。

「駄目なのか、美和子」

「駄目じゃないよ。駄目じゃないけどさ、私まだちゃんと好きって言われてないよ」

「好き」

「ちょっ……!」

「言っただろ。後は何だよ。どうすればいい」

感動の告白のはずがサラッと流されてしまい、私はこれについては正式に抗議したいほど納得がいかなかった。

しかしこんな体勢で、しかも久遠くんにしては上出来すぎるほどに分かりやすく意思表示をしてくれたのだから、私はここらへんで、彼のことを認めなければならない。

「……まだ駄目」

「だから、何で」

「喪服のままじゃ、久遠くんのお父さんに悪いから……」

私の返事を理解した久遠くんは、目を細めた。

「……じゃあ、脱げばいいのか」

「うん」
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