不埒な先生のいびつな溺愛
久遠くんはさっきから、こっちを見ようとしない。

こんなことはよくあることだから、私は気にせず備え付けのテーブルをおろしてあげて、さらにそこにお弁当を広げてあげた。

「食べないの?」

「……食べる」

「久遠くん、なんか変じゃない?」

図星だったようで、彼はパキンと割り箸を割って、そのまま固まった。

「別に、何もねえよ」

「嘘だ。なんかいつもと違うよ」

移り変わる景色には背を向けて、私は久遠くんばかり覗き込んだ。その視線についに観念したらしく、彼はまくまくとお弁当を食べながらも、白状した。

「遠出なんかしたことねえから……分かんねえんだよ」

彼は顔を赤く染めた。

まったく言葉足らずだけれど、私は、久遠くんは女性と遠出をしたことがないから緊張しているのだということが、これだけで理解できた。

経験豊富だと思っていた久遠くんの“初めて”を貰うことができて、私もつい頬が熱くなった。

「うん。色んなところ行こうよ。お墓参りじゃなくても」

「……どこ?」

「そうだなあ、京都のお寺とか、博多のラーメンとか、北海道の雪まつりとか。あと熱海の温泉!ハワイもグアムもヨーロッパも、オーストラリアも行きたいかな」

「……多い」

「全部行けるよ。これから時間はたくさんあるんだから」

久遠くんはじっとこちらを見つめて、「それってどれくらい?」という顔をしていた。

彼はまだ、私がずっと一緒にいると約束したことを信じてくれていない。
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