不埒な先生のいびつな溺愛
「手繋ぐ?」

自分のスカートで手のひらを拭ってから、私はそれを隣を歩く久遠くんに差し出した。

「えっ」

本当に意外なのだけれど、久遠くんは色々すっ飛ばして私に「抱きたい」と言い放った過去があるくせに、こういうことにはめっぽう弱いのだ。

普通の恋人がするようなことを求めると、すぐに赤くなって項垂れてしまう。

もちろん、彼は断ることもしないけれど。

「繋ごうよ。今日は仕事じゃないし、誰も見てないし」

「……わかった」

久遠くんが乾いた右手を私の方に寄せてきた。私はそれを左手で迎え入れて、ギュッと握る。

彼の大きな手は私の手からはみ出ているし、私の手を握り返してはいないけれど、久遠くんはこれで精一杯だとばかりに顔を逸らせてしまった。

「へへへ」

正直言えば、私の方は、付き合い始めてからこの半年で、彼にすっかり慣れてしまった。もともと彼ほどシャイではないし、もう自分の好意は素直に伝えることができる。

今ではいつまでも初々しい彼の反応が可愛くて、わざとこういうことを求めてしまうだけだ。

「何笑ってんだよ。バカにしてんのか」

「してないよ。幸せだなあ、って」

お墓参りに来たのに幸せに酔いしれるなんて、バカは私のほうだ。

でも、それが彼のお父さんに対して不義理に当たるとは思わなかった。きっとお父さんも望んでいたことだ。
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