不埒な先生のいびつな溺愛
「……入れ」
先生はとりあえず私を家にあげてくれた。
もともとそういう約束で会社から連絡をしてあったのだから、不都合はなかったはず。
中はさっぱりとした部屋だった。というか、引っ越してきたまま、という感じ。
いつも持ち物が少ないところは、昔と変わっていない。
思い出せば、先生は本当に物欲というものがなかった。
先生のポテンシャルが高いため、この白シャツとだぼついたジーンズ姿でもお洒落に見えるが、先生はこれ以上の装飾品を着けない。
ここにピアスがついていれば、バンドマンやモデルみたいになるのに。
今度は私が、先生のことを上から下まで舐めるように見ていた。
「な、なんだよ、ジロジロ見んな」
驚いた。視線を逸らした先生は、耳まで赤くなっていた。
再会はしたが、久遠先生が予想以上に戸惑っていたことで、引き替えてこちらは冷静でいられた。
再会するにあたり私は色々と頭を整理してきたが、先生のほうは今それが始まったのだから無理はない。
先生は私をソファーに座らせてくれた。
しかし自分は座る様子を見せず、L字型のソファーのとこにも座らず立ち尽くしている。
「……先生、あの、先生も座ってください」
ビクリ、ビクリと、何ら変なことは言っていない私の言葉に、先生はいちいち反応した。
なんだか新鮮だ。
「……あ、ああ」
先生はさっきからずっと口元を左手で抑えていたが、座ると同時にそれもゆっくりと離していった。
私は姿勢を正した。
目の前にしているのは、これから有名作家にのしあがる、久遠タカユキ大先生なのだ。
「久遠先生。改めて、新人賞受賞おめでとうございます。これから担当として、サポートしていきますのでよろしくお願いします。十年以上前ですから、もしかしたら私のこと覚えてないかもと思っていたんですが、覚えていてくれたんですね」
「……美和子。お前、それ本気で言ってんのか」