不埒な先生のいびつな溺愛
また一瞬で、空気が張りつめた。
先生の、横暴で支配欲のあるモノの言い方は昔と変わっていない。
これはある程度は流していても問題ないのだが、たまに琴線に触れると追及される。
最後の「本気で言ってんのか」を軽く流せば、本気で怒られる気がした。
しかし何故先生を怒らせてしまったのかはよく分からない。
先生の瞳を真剣に見つめ返した。
ガラス細工のような瞳には、大人になった今の私がしっかりと映っており、気をしっかり持っていないと、耐えきれずに目を逸らしてしまいそうだった。
「本気で言ってるとは、何をですか?」
こうして私がどんなに慎重に話を進めようとも、私が敬語を使って話をしている時点で、おそらく彼には無条件で苛立ちが蓄積している。
私の一言一言で彼の眉間には皺が深く刻まれていき、そしてついに、彼の堪忍袋の緒が切れた。
「俺が美和子のことを覚えてないって本気で思ってたのかって聞いてんだよ!」
言葉の圧力で体の前面が吹き飛ばされそうだった。
高校時代を思い返してもここまで酷く怒鳴られたことはなかった。
何も悪いことを言ったつもりはないが、再会して早々に“久遠くん”に怒られ、私は一気に、涙腺が熱くなった。
この十二年、ずっと心に引っ掛かっていた“久遠くん”を怒らせたのだ。
ずっと会いたかったのに。
「すみません、覚えていただいていたのが、嬉しかっただけです。久しぶりに顔を見て、本当に、嬉しくて……」
「……美和子」
「私は再会できて嬉しいです」
「……お前はいつもそうだ、昔から。昔からそうやって、俺を……」
切ない吐息のような声を、久遠先生は少しずつ溢していた。
苦しい苦しい顔をしたあとで、先生はほんの少しだけ、片方の口角をピクリと上げるだけの、悲しいときに見せる笑顔のような顔になった。