不埒な先生のいびつな溺愛

再会して数日後、私は先生に、これまでの十二年間のことを尋ねることにした。

「先生。大学を卒業したあとは、どうしていたんですか?」

ソファーで寛いでいた先生にそっと聞いた。

先生が大学を卒業してから二十九歳でデビューをするまでの期間のことを、私は何一つ知らなかった。

先生は長続きする友人がいないからか、先生のことを詳しく知っている共通の友人も存在しなかった。通った大学も、先生と私は離れていて、卒業以降は本当に何の情報も入ってはこなかったのだ。

「適当に就職した」

「就職!?」

驚きのあまり大きな声が出た。先生は少しムッとして、私を睨む。

「なんだよ……悪いかよ」

この十二年間、別に先生がどんな暮らしをしていようと、私は尊敬するつもりも、軽蔑するつもりもなかった。てっきり執筆活動をずっと続けてきて、今回やっとのデビューだったのかと思っていたから、会社員になった先生などまったくの予想外だ。

働いていたとしても、人と顔を合わせないアルバイトか、怪しいアンダーグラウンドの仕事だとか、そこらへんかと。

「ど、どんなお仕事だったんですか?」

「教えねえ。お前さっき馬鹿にしたから」

「してませんっ」

拗ねてしまった先生の機嫌は、そう簡単には直らない。

< 17 / 139 >

この作品をシェア

pagetop