不埒な先生のいびつな溺愛
再会して数日後、私は先生に、これまでの十二年間のことを尋ねることにした。
「先生。大学を卒業したあとは、どうしていたんですか?」
ソファーで寛いでいた先生にそっと聞いた。
先生が大学を卒業してから二十九歳でデビューをするまでの期間のことを、私は何一つ知らなかった。
先生は長続きする友人がいないからか、先生のことを詳しく知っている共通の友人も存在しなかった。通った大学も、先生と私は離れていて、卒業以降は本当に何の情報も入ってはこなかったのだ。
「適当に就職した」
「就職!?」
驚きのあまり大きな声が出た。先生は少しムッとして、私を睨む。
「なんだよ……悪いかよ」
この十二年間、別に先生がどんな暮らしをしていようと、私は尊敬するつもりも、軽蔑するつもりもなかった。てっきり執筆活動をずっと続けてきて、今回やっとのデビューだったのかと思っていたから、会社員になった先生などまったくの予想外だ。
働いていたとしても、人と顔を合わせないアルバイトか、怪しいアンダーグラウンドの仕事だとか、そこらへんかと。
「ど、どんなお仕事だったんですか?」
「教えねえ。お前さっき馬鹿にしたから」
「してませんっ」
拗ねてしまった先生の機嫌は、そう簡単には直らない。